適切な意思決定支援に関する指針
1. 基本方針
当院では、人生の最終段階を迎える患者さんが、その人らしい最期を迎えられるよう、厚生労働省の「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」等の内容を踏まえ、多職種から構成される医療・ケアチームにより、患者さんとその家族等注1)に対し適切な説明と相談のもと、本人の意思決定を尊重した医療・ケアを提供できるように努めます。
注1)患者さんが信頼を寄せ、人生の最終段階の本人を支える存在。法的な意味での親族関係のみを意味せず、より広い範囲の人(親しい友人等)を含み、複数人存在することも考えられる。
2. 「人生の最終段階」の定義
人生の最終段階(終末期)とは 、以下の3つの条件を全て満たす場合です。
・ 複数の医師が客観的な情報を基に、治療により病気の回復が期待できないと判断すること。
・ 患者が意識や判断力を失った場合を除き、患者・家族・医師・看護師等の関係者が納得すること。
・ 患者・家族・医師・看護師等の関係者が死を予測し対応を考えること。
(全日本病院協会、2016)
3. 人生の最終段階における医療・ケアの在り方
① 医師等の医療従事者から適切な情報の提供と説明がなされ、それに基づいて医療・ケアを受ける患者さんが多職種の医療・介護従事者から構成される医療・ケアチームと十分な話し合いを行い、本人による意思決定を基本としたうえで、人生の最終段階における医療・ケアを進めることを最も重要な原則とします。
② 患者さんの意思は変化しうるものであることを踏まえ、本人が自らの意思をその都度示し、伝えられるような支援が医療・ケアチームにより行われ、本人との話し合いを繰り返し行いながら人生の最終段階における医療・ケアを決定していきます。
③ 患者さんが自らの意思を伝えられない状態になる可能性があることから、家族等の信頼できる者も含めて、本人との話し合いを繰り返し行うことが大切です。したがって、この話し合いに先立ち、患者さんは特定の家族等を自らの意思を推定する者として前もって定めておくことも重要となります。
④ 人生の最終段階における医療・ケアについては、医療・ケア行為の開始・不開始や医療・ケア内容の変更、医療・ケア行為の中止等は、医療・ケアチームによって、医学的妥当性と適切性を基に慎重に判断していきます。
⑤ 医療・ケアチームにより可能な限り疼痛やその他の不快な症状を十分に緩和し、患者さん・家族等の精神的・社会的な援助も含めた総合的な医療・ケアを行っていきます。
⑥ 生命を短縮させる意図をもつ積極的安楽死は、本指針の対象とはいたしません。
4.人生の最終段階における具体的な医療・ケアの方針決定支援
(1)患者さんの意思が確認できる場合
① 患者さんに医師等の医療従事者から適切な情報の提供と説明を行った上で、本人による意思決定を基本とし、家族等の関与も得ながら、医療・ケアチームとの合意形成に向けた十分な話し合いを行います。その上で、厚生労働省の「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスにおけるガイドライン」を参考に、本人による意思決定を尊重し、家族等および多職種から構成される医療・ケアチームが協力し、医療・ケアの方針を決定していきます。
② 時間の経過、心身の状態変化、医学的評価の変更、患者さんや家族等を取り巻く環境の変化等により、意思は変化することがあるため、医療・ケアチームは、患者さんが自らの意思をその都度示し、伝えることができるように支援します。患者さんが自らの意思を伝える事ができなくなる可能性もあるため、その時の対応についても予め家族等を含めて話し合いを行っていきます。
③ このプロセスにおいて話し合った内容は、その都度、診療録にわかりやすく記録いたします。
(2)患者さんの意思が確認できない場合
① 家族等が患者さんの意思を推定出来る場合には、その推定意思を尊重し、患者さんにとって最善である医療・ケアの方針を医療・ケアチームとともに慎重に検討のうえ決定していきます。また、心身の状態の変化、医学的評価の変更等に応じて、このプロセスを繰り返し行っていきます。
② 家族等が患者さんの意思を推定出来ない場合には、患者さんにとって何が最善であるかについて、家族等と医療・ケアチームにより十分に話し合い、患者さんにとって最善の方針を取っていきます。また、時間の経過、心身の状態の変化、医学的評価の変更等に応じ、このプロセスを繰り返し行っていきます。
③ 家族等がいない場合、または家族等が判断を医療・ケアチームに委ねる場合は、患者さんにとって最善と思われる医療・ケアの方針を医療・ケアチームが慎重に検討し決定していきます。
④ このプロセスにおいて話し合った内容は、その都度、診療録にわかりやすく記録いたします。
5. 障害や認知症等で自らが意思決定をすることが困難な患者さんの意思決定支援
障害や認知症等で、自らが意思決定をすることが困難な場合は、厚生労働省の作成した「障害福祉サービス等の提供に係る意思決定支援ガイドライン」や「認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定ガイドライン」を参考に、出来る限り患者さんの意思を尊重し、医療・ケアチームの支援をもとに家族等と話し合い、最善と思われる意思を反映しながら患者さんの意思決定を支援します。
6. 身寄りがない患者さんの意思決定支援
身寄りがない患者さんにおける医療・ケアの方針についての決定プロセスは、患者さんの判断能力の程度や、入院費用等の資力、経済力の有無、信頼できる家族等の有無等により状況が異なるため、介護・福祉サービスや行政の関わりなどを利用して、患者さんの意思を尊重し、厚生労働省の「身寄りがない人の入院及び医療に係る、意思決定が困難な人への支援に関するガイドライン」を参照し、その決定を支援していきます。
7. 複数の専門家からなる話し合いの場
上記4、5、6の場合における方針の決定に際し、
① 医療・ケアチームの中で、心身の状態等により医療・ケアの内容の決定が困難な場合
② 患者さんと医療・ケアチームとの話し合いの中で、妥当で適切な医療・ケアの内容についての合意が得られない場合
③ 家族等の中で意見がまとまらない場合や、医療・ケアチームとの話し合いの中で、妥当で適切な医療・ケアの内容についての合意が得られない場合
上記等が生じ方針の決定が困難となった場合には、複数の専門家からなる話し合いの場(臨床倫理コンサルテーション及び倫理委員会)を設置し、医療・ケアチーム以外の者注2)を加えて、方針などについて審議・検討し、助言や決定を行います。
注2)法律家や生命倫理学者、一般の立場を代表する者、等
8. 参考資料
・ 人生の最終段階における医療・ケアの決定、プロセスにおけるガイドライン 厚生労働省 2018年3月改訂
・ 身寄りがない人の入院及び医療に係る、意思決定が困難な人への支援に関するガイドライン 厚生労働省(地域医療基盤開発推進研究事業)2019年5月
・ 障害福祉サービス等の提供に係る意思決定支援ガイドライン 厚生労働省 2017年3月
・ 認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定ガイドライン 厚生労働省 2018年6月